2010-12-27

今年の3冊

はやいもので、もう2010年も残りわずかです。今年は通勤時間が片道2時間近くになったこともあって、電車のなかが主な読書の場所でした。そんなわけで、いつもよりも文庫本を読んだなあ、という印象です。今年読んだ本のなかから、ベスト3を選ぶとすると、こんな感じでしょうか。ちなみに、「私が今年読んだもの」なので、「今年出版されたもの」とは限りません。

1.高村薫『レディ・ジョーカー(文庫版上・中・下)』新潮文庫、2010年。
もともとは、1997年に出版されたものが、加筆されて、やっと文庫版になりました。実は10年近く前に同じ筆者の代表作『マークスの山』を読んだときは、描き込みのすごさに感心しつつも物語性という意味では物足りない印象だったのですが、この『レディ・ジョーカー』は、それを上回る警察組織、企業、そして犯人側の緻密過ぎる心理描写とサスペンスが見事に融合してました。肝心の「事件」を、複数の視点をいったりきたりしながら描き出す手法もお見事です。とにかく濃密な3分冊で、読みながら終わるのが惜しいと思いました。

2.伊藤計劃『虐殺器官』ハヤカワ文庫、2010年。
SF好きの方にはおなじみなのかもしれませんが、普段あまりSFを読まない私には、なかなか衝撃的な話でした。内容はハチャメチャなのに、妙にリアルな語り口で、9.11以後の世界を見事に描いています。著者の遺作『ハーモニー』も読みました。『ハーモニー』のほうが野心的な内容だったように思いましたが、作品としてのバランスとしては、この『虐殺器官』のほうがよかったかなという感じです。

3.デビッド・ハルバースタム『ベスト・アンド・ブライテスト(上・中・下)』二玄社、2009年。
アメリカを代表するジャーナリスト、ハルバースタムの主著といっていい本作ですが、朝日文庫が絶版にしてしまって以来、長く入手不可能なままでした。昨年、やっとソフトカバーの三分冊で再版され、早速読みました。若き大統領ケネディのもとに結集した輝かしい経歴を持つエリートたちが、なぜベトナム戦争の泥沼にはまってしまったのか。その一人一人の描き込みも見事ですが、彼らが軍や組織のなかで取り返しのつかない誤った選択を重ねてしまう過程を丁寧に描いており、社会学の視点で読んでも面白い1冊です。

そのほか、今年読んで印象的だったものとしては、金城一紀『映画篇』(集英社文庫、2010年)阿部和重『シンセミア(1〜4)』(朝日文庫、2006年)といったところでしょうか。小説が多いなあ。専門書、ノンフィクション、英語書籍は、どっちかというと新しい大学での授業準備のために読んだのがほとんどだったので、勉強になったけど新鮮さにはちょっと欠けてた感じでした。ただ、知識のベースになっていた大学院・留学時代から10年近く過ぎているので、そのあいだの研究動向をまとめられたのは収穫だったかもしれません。

今年は、「かさばる」という理由で、分厚い単行本をじっくり読むという時間をなかなか作れなかった1年でした。来年はもう少しお堅いものにも手を出していきたいです。

というわけで、来年はもう少しブログのほうも頻繁に更新できればと思いつつ、マイペースで続けていきたいです。

2010-12-23

人種研究シンポ

新年明けてすぐの1月8日〜10日にかけて、京大人文研の「人種表象の日本型グローバル研究」シンポジウムで発表します。京大主催だけど、会場は東京・品川です。いま、急ピッチで原稿を仕上げています(実は今日が締切なのですが・・・)。私は8日に登場します。当日の構成は以下のとおり。私の報告は、20世紀はじめの日本人移民が、アメリカの人種主義を「日本語の枠組」でどんなふうに考え、解釈したのか、という話です。「日本語の枠組」の話を英語で発表するという時点で、なにやらおかしな事になっているわけですが、言語学やら翻訳学の専門ではないので、そのあたりを社会学や移民研究・人種研究の枠組で考えてみたいなあと思います。


“Racial Representations of Japanese/Asian Americans”

Days: January 8-10, 2011
Places: Tokyo Office of Kyoto University, Shinagawa, Tokyo/ Campus Innovation Center, Tamachi, Tokyo/ Institute for Research in Humanities, Kyoto University

January 8 (Sat), 2011, 10:00-17:00

Tokyo Office of Kyoto University, Shinagawa, Tokyo

10:00-10:10Introduction: Yasuko Takezawa (Kyoto University)
10:10-11:00Gary Okihiro (Columbia University)
“Asian/Japanese Americans and the U.S. Social Formation”
11:00-11:50Fuminori Minamikawa (Ritsumeikan University)
“Vernacularizing Racism: Japanese Immigrants and the Language of Race”
11:50-13:10Break
13:10-14:00Michael Omi (University of California, Berkeley)
“The Unbearable Whiteness of Being: Representations of Japanese/Asian Americans in Contemporary Sociological Theory”
14:00-14:50Sachiko Kawakami (Kyoto University of Foreign Studies)
“Postcolonial Nihonmachi: Commodifying Racial Differences in the Age of Globalization”
14:50-15:10Coffee Break
15:10-16:00Mari Matsuda (University of Hawaii, Manoa)
“Japanese Americans and Progressive Political Identity: Intergenerational Portraits”
16:00-Open Discussion
Commentators: Eiichiro Azuma (University of Pennsylvania)
Masumi Izumi (Doshisya University)
(Reception to be followed)

2010-11-01

シンポジウムのお知らせ・日本社会学会

11月5日(金)、立命館大学国際言語文化研究所で秋の連続講座「グローバル・ヒストリーズ:国民国家から新たな共同性へ」第1シリーズ「トランスアトランティック・トランスパシフィック」の第1回「グローバル・ヒストリーズとは何か:トランスアトランティック・トランスパシフィックな視点をもとに」(長い・・・)が開催されます。私は、ピンチヒッターで当日、司会を担当することになりました。近年、何かと議論になっているのトランスナショナリズムの観点から、歴史やら社会を見直そうというという流れのなかで、そのような視点の可能性やら限界やらを議論する機会になるかと思います。ちなみに場所は、立命館大学創思館1階カンファレンス・ルームにて、16:30〜19:00開催です。

ちなみに翌日6日は名古屋大学で日本社会学会大会の自由論題の司会をします。なんと英語部会の司会です・・・。詳細は以下。

会場 名古屋大学東山キャンパス

Migration and Ethnicity(英語部会1
教室 本館SIS2
司会者 南川 文里(立命館大学)


1.Living under the Same Roof: a Sociological Exploration on Migrant People’ s Living Space Construction in Sha Village, a Typical Suburban Community of Metropolitan Beijing
 Kyushu University  Li Wei

2.Socioeconomic Characteristics of Asian Americans and Non-Hispanic Whites: Generational Differentials and Assimilation
 Nihon University  Isao Takei

3.Segmented Assimilation, Transnationalism and Educational Attainment of Brazilian Migrant Children in Japan
 ○Shizuoka University Hirohisa Takenoshita
  National Institute of Population and Social Security Research Yoshimi Chitose
  Shizuoka University of Art and Culture Shigehiro Ikegami
  Shizuoka University of Art and Culture Eunice A. Ishikawa

4.From workers to Entrepreneurs: Development of Bangladeshi Migrant Businesses in Japan
National University of Singapore Md Mizanur Rahman

5.Returned Undocumented Migrants from Japan to Thailand
Nagoya University of Business and Commerce Kayoko Ishii

移民、エスニシティ関連の報告が集まっているんで、自由論題だけどなかなか密度の濃い議論ができそうです。楽しみ。


2010-10-14

いただいた本


著者の方から夏休みの間に送っていただいていたようだったのですが、前任校のほうに届いてしまっていたので、先頃非常勤で行った際にやっと手にすることができました。
塩原良和さん『変革する多文化主義へ:オーストラリアからの展望』(法政大学出版局、2010年)です。

著者の塩原さんは同世代の研究者ですが、すでに2冊目の単著。すごいです。内容は、オーストラリアの多文化主義の現代的展開の考察と、そこから日本の「多文化共生」の議論への介入というものです。オーストラリアという「多文化主義先進国」で生じているネオリベラル化・選別や排除の強化という現状を冷静に分析しつつ、それでも地域での実践のなかから「オルタナティヴな多文化主義」を模索していこうとする態度には共感を覚えます。



2010-09-27

後期開講日

今日から後期の講義が開講。いきなり3コマ連続でしゃべりつづけて疲労困憊。とくに3限は英語での講義ということで、事前準備が日本語の場合の比ではないので(これは私の英語力の問題ですが・・)、今学期は月曜日が大きなヤマになりそうです。

あまり更新できませんでしたが、今年の夏は、前任校での集中講義、LAでの資料収集、そして論文の執筆とあいかわらずバタバタしているあいだに終わってしまいました。誤算は、9月はじめに購入したiMacが初期不良で結局注文してからまともに使えるようになるまで2週間以上かかってしまったこと。9月は新しい27インチ大画面のiMac(Core i5)でバリバリと論文を書くはずだったのですが・・・。ちなみに初期不良の内容は、冷却ファンが終始高回転を続けるというものでした。結局、新品と交換になり、交換品のほうは、ちゃんと静かに動いています。これから4年間活躍したiMac(20インチ、Core 2 Duo)の売却先を検討しなくては。

というわけで、新学期も落ち着かないスタートとなりました。新学期は始まってしまったのに、締切間近の論文が複数あるという、かなり厳しい状況ではありますが、なんとか乗り越えていきたいものです。


2010-09-13

「『市民』の境界、シヴィックな越境」

『アメリカ史研究』第33号に、拙稿「『市民』の境界、シヴィックな越境:排日運動期の日系移民とシヴィック・リアリズム」が掲載されました。特集企画「アメリカにおける『市民』の境界:包摂と排除」のなかの1本として、昨年のアメリカ史学会のシンポジウムで発表した内容をもとにまとめました。

少しこの論文の背景を説明しておくと、拙著『「日系アメリカ人」の歴史社会学』について歴史学系の方々からコメントをいただいたとき、Gary Gerstleのcivic nationalism論をあまりに無批判に受け入れているのではないか、という点を指摘されました。たしかに自分の理論枠組を構築する際に、Gerstleのnationalism論に依拠していた部分もあるため、至極もっともな指摘であったと思います。ただ、そのとき、社会史系の研究者のあいだでは「常識化」しているといっていい「国民化」批判やナショナリズム批判から抜け落ちてしまうものもあるのではとも感じました。そこで、この論文では、あえてアメリカのcivic nationalismに積極的にコミットした日系移民指導者の姿を通して、それを否定するのではなく、civicな理念が有するダイナミズムのほうに目を向け、その歴史的意味をちゃんと論じてみようと考えました。結局「国民化」してしまいました、という話ではなく、その「国民化」のプロセスになかに、それ自体を乗り越えるような可能性を見いだすこと、そして、その可能性がなぜ実現しなかったのかを考えること、そうした方向性のほうに、私としては魅力を感じたわけです。そのようなねらいが、この論文のなかで十分に発揮できているかは自信がありませんが・・・。

この論文は、私にとって『アメリカ史研究』では二本目の論文になります。前回、歴史学的な記述との違いに悪戦苦闘したということもあり、今回はリベンジのつもりで再トライしました。自分ではけっこう歴史学っぽいものになったかなと思っていましたが、先日、某氏に「やっぱり社会学の方って感じの論文ですよね」と言われてしまいました。ディシプリンの壁はなかなか厚く、高いようです。


2010-06-24

日本移民学会年次大会@立命館



今週末は、立命館大学で日本移民学会の第20回年次大会が開催されます。20回目の記念大会です。設立大会が立命館大学で開かれたという縁もあり、20周年の記念すべき大会もこちらで開催することになりました。

私も開催校担当として、あちこちでお手伝いさせていただく予定です。20周年記念講演などの企画のほか、フリースペースという会員の方々が情報交換したりできる場所なども設けています。移民学会の20年をふりかえりつつ、これからの課題をあれこれ議論できる機会になればいいですね。

2010-06-14

いただいた本

お世話になっている方々よりご著書・訳書をいただきました。

   

まず、イアン・ティレル著『トランスナショナル・ネーション:アメリカ合衆国の歴史』(明石書店)です。これは、近年のアメリカ史やアメリカ研究のキーワードにもなっている「トランスナショナリズム」の観点からアメリカ史をとらえなおしたもの。読み物としても面白そうだし、うまく使えば、ゼミのテキストにも利用できそうです。

もう一つが、加藤哲郎ほか編『国民国家の境界:政治を問い直す(1)』(日本経済評論社)です。加藤哲郎先生の授業は、大学時代にとってました。とにかく声が大きく、一気にしゃべり倒す名物講義でした。カトテツゼミOBの先輩からいただきました。市民権、国籍、移民、公共圏など、興味深いテーマの論文がいろいろと収録されています。いろいろと参考にさせていただきます。

2010-04-04

新年度のごあいさつ


早いものでもう4月です。この4月から所属が変わり、初めてのことだらけで何やらバタバタしております。

前任校には本当にお世話になりました。大学としての雰囲気も大好きでした。改革の波のなかでも、あのカラーを今後も大事にしてほしいなと思います。

新しい本務校ではいろいろ忙しくなるとあちこちから言われていますが、今はひとまず新しく担当することになった授業をちゃんとやり切ることができるかどうかというほうの期待と不安でいっぱいです。大学院の担当というのもはじめてですし・・・。大学側の学生や院生をサポートする姿勢には感心していますが、それはつまり教員側にとっては配慮しなくてはならないことやカバーしなきゃいけないことが増えているということも意味するわけで。ひとまずは、そういう大学の姿勢を前向きにとらえて、新しい講義やゼミも、自分の研究の幅を広げたり、深めたりできる機会にするふうに持って行きたいと思います。最初の数年は「修行」ととらえて、長い目で自分のことも考えてみようと思います。

とはいっても、研究もしっかりやらなくては。3月末締切の原稿は早めに提出できましたが、まだ5月締切の論文が残っています。いま方向性が迷走気味・・・。そろそろ落としどころを決めなくては。

というわけで、昨年度までお世話になったたくさんの方々に感謝を述べつつ、新年度もがんばっていきたいと思います。

2010-01-25

いただいた本

最近、著者・訳者の方からいただいた本です。

   

山川出版社の『アメリカ史研究入門』(2009年)です。通史およびテーマ別の研究動向が第一線の研究者のみなさんによって紹介されています。同種の入門書的な書籍はいろいろ出ていますが、歴史に絞ったことで、けっこう細かい事例や英語文献も紹介されており、日本だけでなくアメリカでの研究動向などを知りたい方にもおすすめです。

それから、アン・ローラ・ストーラーの『肉体の知識と帝国の権力:人種と植民地支配における親密なもの』(以文社、2010年)です。植民地支配の歴史研究なんですが、フーコーの理論を援用した大胆な議論が魅力のようです。アン・ローラ・ストーラーの議論は批判的人種研究という観点から興味を持っていたので、さっそく春休みのあいだに読ませていただきます。

2010-01-06

謹賀新年


少し遅れましたが、あけましておめでとうございます。

今年の年末年始は、私と妻の実家を巡ってのんびりでしつつ、書評を頼まれた英語の本を読み、それから論文2本の仕上げをしました。のんびりしながらお仕事充実という不思議な日々でした。

今年の年末年始に読んだ本

Yuiko Fujita, Cultural Migrants from Japan: Youth, Media, and Migration in New York and London

藤田結子さんの新著です。以前に新曜社から出版された『文化移民:変容する日本の若者とメディア』(2008年)の英語版・・・というか、もともとイギリスの大学院にdissertationとして提出したものだったそうなので、英語版のほうがオリジナルというべきでしょうか。

両方読んだ感想としては、やはり日本語のほうが、インタビューデータにおける若者の声を直接反映しているように思えて面白いのかなという印象です。でも、そのあたりのニュアンスを英語で、非日本語圏の読者にも伝えようという藤田さんの努力の跡が垣間見えます。

いずれも、在外日本人を取り巻くベーシックな問題を包括的に扱っているので、今後のこの分野での必読文献になるでしょう。